空箱と金平糖

創作や二次創作、ゲームの話やマンガの話を投下しておく倉庫です。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

序章【刀剣乱腐小説*つるんば】

 

※現パロ注意。

 

現パロ大好き人間です。

作家鶴さんと画家まんばくん
視点ころっころ変わるので注意。
✱←このマークで始まったらまんばくん視点
□←このマークで始まったら鶴さん視点です。

続く…かもしれない

 

 


「正直、お前が絵本作家になるとは思わなかった。」
唐突に目の前の男にそんなことを言われる。先ほどの発言は作家の自分の担当である長谷部という男だ。
「そうかい?俺は創作向きの性格をしていると思うがな」
自分、五条国永の好きなことといえば、もちろんまずは新鮮な驚き。新しいものも好きだが、昔のダイヤル式の黒電話なんかにも心が踊る。花瓶に生けられた花よりは雪から顔をだした蕗の薹が好ましい。漫画のページをめくる緊張感や小説の想像させるような誠実な文面も大変気に入っているが、高校生で改めて絵本を読んだ時に感じた胸がじんわりとなるあの感覚には及ばない。
五条国永は絵本を愛していた。
一応は文と共に絵も自分で作ろうと考えていたのだが、五条が絵本の良さに気がついたのは高校二年生、16歳の時だった。それから六年たって、22歳。一昨年絵本作家としてデビューしたばかりだ。一朝一夕で絵なんぞ覚えられるわけがなく、完成した文章を前に自分の画力の上達を待つことなどできなかった。
だから絵を描いくれる人を出版社のほうで用意し、売り上げを絵かきさんと分割するような形でかいている。それでもまだこれだけで生活できるくらいには、五条の本は売れていると言ってよかった。
しかし、五条国永はこれまで六冊、半年に一つのペースで絵本を出版してきたが、そのすべての絵本で、絵を描く人間を変えさせていた。相手や長谷部には「同じ絵柄じゃ驚きが足りんだろう」と説明して納得させたが、実のところをいうと単純に「違う」と思うからだ。絵のついた出来上がった絵本を見せられると、どうしても何か違っていて、もちろんとても上手くて文句なんかないのだが、それは俺が高校生の時に絵本を読み、なんだか読むにもキラキラと眩しくて、その絵本を抱えているだけで誇らしい気持ちになるような高揚感ではなかったのだ。
「創作向きは創作向きだが。どちらかといえば絵を描く方が得意そうなイメージだ。」
「それこそ俺には才能がないぜ?」
「あぁ、不思議だ。」
長谷部は高校時代の、というか中学校からの付き合いだからそう思うのだろう。もともと五条は暇でなければ漫画や小説だって読まないタイプだった。
「むしろこれから会う絵師さんの方が、文章を書きそうなイメージだしな」
「お、もしかして俺がこの間プロットを送ったやつのかい?」
「そうだ。もう伝えたがあのプロットは良かった。珍しくバッドエンドなんだな。」
「どらまちっくだったろ?一応俺の思い出話が元になってるんだぜ?」
けらけらと笑いながら言うと、長谷部はげんなりとした顔で口を開いた。
「その話は何度も聞いた。とある展示会場で会った少年の話だろ?“鶴丸国永”とかいうペンネームもその展示の刀だそうだな。」
もうずっと前のことなのに、少年の声は未だ焦ることなく焼き付いている。
──『あんたに似て、白く美しい刀だ』
深くかぶられたフードに隠された透けるような金色の髪。そのさらに奥の碧色に、たった一瞬で五条は射止められた。
だからこんどの絵本だけは、納得できる出来栄えになると良いのだが。


ほぼ雑談でしかなかった打ち合わせは、長谷部がこれから例の絵師さんとの打ち合わせということで帰らされた。俺も会ってみたいと言ったのだが、「あまり他人と関わるのが得意でない人なんだ。つまりお前とは相性が悪い。」
ととり合ってもらえなかった。
仕方がないから、長谷部のいつもの椅子に少し仕掛けをしておとなしく帰ることにした。
エレベーターを降りたところで、勢い良く人とぶつかってしまった。こういう時はいつも体の細い自分のほうが倒れてしまう。転び慣れているから痛くもないし構わない。ぶつかった相手は倒れはしなかったが、持っていたファイルからばらばらと紙が床に散らばってしまっていた。すでに自分が転んで床に近しいのを利用して彼の落とした紙を拾っていく。
すぐ上の方から「...っすまない」という謝罪が聞こえてきて、すぐその人も紙を拾いはじめる。けれど五条の耳や目には全くその情報は届かなかった。拾い上げた紙にくぎ付けになる。
その紙たちに描かれていた絵は、まさに自分の理想だった。高校時代に絵本に感動したのと全く同じ感覚がふつふつと湧き上がってくるのを感じる。
ぶつかった相手は完全に残りの紙を拾いあげて、「えっと、大丈夫ですか?」
その声で我に変える。相手は青年のようで、フードを深く被っていて顔はわからないが、芯のある良い声をしていた。
その声になんだか聞き覚えがあるような気がしたが、なんだったかよくわからない。
それに、そんなことよりも。
「君、俺の絵本の絵を描いてくれないか?」
言った瞬間、彼は小さくたじろいだ。
「普通作家がもらえる分の売りあげも全部君にやったっていい!次の作品だけでも、どうか君に描いてほしい」
その返答はもらえなかった。俺の背後のエレベーターから、担当の長谷部が現れたからだ。
「来るのが遅いから来てみたが、五条に絡まれてたのか。」
「もともと遅れそうで急いでいたらこの人とぶつかってしまったんだ。だから五条、さん?は悪くない」
五条は二人の間に立ち、なんとなく話を聞いていた。...って
「長谷部!君、少しばかり前にこの後俺の絵本の絵師さんと打ち合わせだって言ったよな!」
「言ったが?」
五条国永は未だかつてない勢いで担当に詰め寄る。それに少しもびびったりしないあたり、長谷部という男もなかなか肝が据わっている。
「今の話の流れだと、君はいまからそこの彼と打ち合わせなんだな!?」
「そうだ。だからはやく帰れ」
長谷部が完全に言い切る前に、五条はがばっと後ろを振り返り、そこにいた出会ったばかりの男に抱きついた。もはやタックルのような勢いだつたが。
抱きつかれた相手は突然のことに驚いた様子で口をぱくぱくとさせている。
「...ありがとう。俺の絵本を完成させてくれるのが君で、俺は本当に嬉しい。」
「困ってるだろうが」
長谷部にべりっと引き剥がされる。かなり乱暴だったが、五条国永はずっと笑っていた。だれも見たこともないほど表情を緩ませて、ものすごく小さな声で呟く。
「...これで、あの子のことを忘れられる」

「にしても、まんばまで同じ美大だったとはねぇ。しかも絵って。」
「俺なんかに絵が描けるわけがないという意味か?」
山姥国広は手元のノートから目を離さずに答える。話しかけてきたのは高校からの知り合いの加州清光。彼は思っていたより面倒見が良いらしく、高校に入学したての頃から国広の世話を焼いてくれている。
「違うって。単に意外だったの。俺にそんな話したことないよね?」
「進路について聞いてこなかっただろ」
「そうだけどさー、卒業式に絶対連絡しろよって念押ししたあれはなんだったの…」
それに関しては国広は加州の進路を聞いていたので どうせ会うのに何いつてるんだろう とは思っていた。
「でもそういえば高校の選択も美術だったね。従兄弟の二人が書道だったから書道だろうと思ってたから、あれも意外だった」
「どうせ兄弟達とは違う学年だしな。」
兄弟達というのは国広の従兄弟二人のことである。小さい頃から国広の面倒を見てきたことや、その過保護っぷりから、もう国広は「兄弟」と呼ぶにまで至っている。
「まぁあんまり喋んないまんばだからこそ絵で表現してるって思えば違和感はないかも?」
「違う」
「じゃあ何で?何で絵なの?」
加州は一度気になるととことん気になるらしい。そんな加州も絵を描くをということは俺は前から知っている。旅行先で似顔絵屋をみかけて、絵を描いてもらった人の笑顔に心を奪われた。そんな理由はいかにも優しい加州らしい。
だからそんな眩しい動機で絵を描く加州に自分の絵を描く理由を語りたくなかった。それがいまの今まで加州が俺が絵を描く理由を知らない事情だ。だがここまできたら話す他ないだろう。自分の不純な動機を。
国広はかばんから一冊の絵本を取り出す。
「絵本持ち歩いてんの!?」
「この本だけだ」
つまり持ち歩いておるのではないか、というセリフを加州は飲み込んだ。
それに全く気付かずに国広は語り始める。
「この人の書く文に、俺が絵を付けたい」
それだけで、ずっとこっそり絵の練習を重ねてきた。

──『かたなのかみさま』
── 文︰鶴丸国永

加州は絵本を読んで納得してくれた。
「ふーん。確かに面白いね。好きな作家の絵本を描きたいってことかぁ。」
本当はそうではなく、作者名を見て会いたくなったりしただけなのだが。
「あぁ。それで、描くことになった。」
「へー……は?」
加州は絵本からがばっと顔をあげた。目が合う。
「ほら、絵本の最後のページを見ろ」
言うとおりに加州は最後のページを開く。
そこに書かれてあるのはたしかに絵師募集の要項だった。封筒に住所や連絡先、ペンネームなどを書いて、中に彼の絵本の登場キャラの絵を好きなように描いた紙を入れ、その封筒をページにのっている会社の住所に送ると、彼の担当さんが見て、選んでくれるというものだ。
「それで送って、選ばれたの?」
「ああ。昨日担当さんに会ってきた。」
そう言うと加州は脚をぶんぶんと振りながら言う。「いーなーもう仕事できるって。」
「加州は今コンペに作品を出品してるんだったか?」
「そうなの!今度こそ賞とれるかな〜」
そんな話をしていたが、加州が「俺この後の講義とってるんだ。そろそろ行ってくるね」と退室した。国広はもう今日の講義はない。机の上の絵本やノート、筆記用具をかばんにしまい、家に帰ることにした。

しかし国広の足は校門の少し前でぴたりと止まった。校門に背中を預けて立っていた白い男は、国広を見つけて手を振ってくる。
鶴丸国永が学校に押しかけてきた。

突然押しかけた上に、一度出会っただけの男だ。もう忘れられているかと思ったが、そんなこともないらしい。彼は俺を視界に入れると、すぐにぴたりとその場で止まってしまった。
そこで待つのも自分らしくないだろう。五条はじりじりと彼の方へ歩いて行く。見る人が見れば、警戒心の強い猫を手懐けようとする人間に誓い図だったかもしれない。
気付けば彼をもう学校の壁まで追い詰めていた。流石に不審者っぽいな。
無言でかすかにたじろいだ彼はずっと地面を眺めている。
下から覗きこむように屈んで、彼の両手をしっかりと掴む。
「この後一緒にお茶でもどうだい?」
俺としたことが誘い文句を考えてくるのを忘れていた。これじゃ悪質なナンパみたいだ。
「わかり、ました」
頭上から戸惑ったような声が聞こえる。そりゃそうだよな、うん。
乞うように少し上を見上げると、揺れる碧色と目が合う。その瞬間、心臓がぐんと跳ね上がった。
一番大事な記憶の一部と、その瞳がぴたりと重なる。忘れることがなかった眼差しの強さがそこにあった。
知ってる。知ってる。この色を、この青年を。
ひゅっと力が抜けて、俺はその場に座り込んだ。
「大丈夫ですか?」
前回会ったときもたしかこう言われた。
彼にとって不審者でしかないはずの自分を心から心配するような声音で。
「はははっ」
笑い出した五条に彼はさらに眉間の皺を深くした。
「そういや、まだ君の名前も知らないんだよなぁ」
「山姥国広だ。鶴丸国永。」
「山姥?珍しい苗字だな。あと鶴丸ペンネームだ。俺は五条国永という。」
もうずっと前に博物館で一度だけ出会った青年。その時のエピソードを多少着色したような物語を完成させて、そうしたらその青年のことを諦めるつもりだった。
それなのに、見つけてしまった。こんな形で。
「そうか、…じゃなくて、そうですか」
目の前の彼は俺のことを覚えているのだろうか。別に覚えていなくたって構わない。諦める理由がなくなった。
もうお互いに子供じゃない。何も知らないままじゃない、何も知らないままではいられなくなった。
だからもっと知りたい。その声で教えてほしい。俺のことも知ってほしい。
彼と一緒にあの特別な物語を完成させたい。
そうしたら、あの物語はバットエンドではなくなるのかもしれないから。

 

 

 

【設定】

五条国永
刀剣乱舞でいうところの鶴丸国永。
文字オンリーの絵本作家。担当はへしべ。
高校二年の夏休み、読書感想文という宿題の存在を忘れていて、急いで書き上げるために短い絵本の 百万回生○た猫 を読んで号泣。以来絵本にはまり作家にまでなった。
昔博物館の刀の展示で国広と一度出会っており、それが初恋。ペンネームの鶴丸国永はその時国広に自分に似ていると言われた刀から。
しかし国広がすぐ引っ越ししたこともありそれ以来再会することもなく、初恋のエピソードを絵本にして吹っ切れようと思っていた。
しかし最近再会を果たしたため、これからアタックが始まる。

○山姥国広
刀剣乱舞でいうところの山姥切国広
美大生。清光とは長い付き合い
高校までずっと親の事情での転校が多く引っ越しばかりしていて、人との関わりを避けていた。
博物館の刀の展示で五条に会い、転校のことを話すと「それいいな!沢山の人と関われるチャンスだろ?きっと君はこれからたくさんの君を大事にしてくれる人と出会って、沢山の幸せをもらって、君も沢山の幸せを与えていくだろう」と予言めいたことを言われ、もし再会することがあれば 出会った人たちの話を五条に語り聞かせるという約束をした。
それを覚えていて、五条に似ている刀、鶴丸国永というペンネームの作家の絵本を見かけ、絵の道を目指す。もともと絵は趣味だった。
わざわざ五条と会った町の美術大学に入学。態度には出ていないが、最近五条と再会できたことを密かに喜んでいる。