空箱と金平糖

創作や二次創作、ゲームの話やマンガの話を投下しておく倉庫です。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

山姥切国広A〜C

山姥切国広A

 

修行から帰ってきた。布をとった俺を見て主は「やっぱりかぁ」と言って笑っていた。

「山姥切、おかえりなさい。」

 

 

俺は主の初期刀ではなかったが、本丸で三番目にきた刀だった。

周りと関わろうとしない俺に主は根気よく話しかけた。構わないでくれと何度言ったことだろう、主は意外にも強情で、決めたことは曲げないタイプらしかった。

呼び方に関してもそうで、俺は山姥切と呼ばれるのがあまり好きではない。いつか山姥切本科が実装されたらどうするのだ、それに山姥切というのは本科の名前であって俺の名前ではないように思うからだ。

演練で会う他の本丸の俺も、大抵は切国、国広、まんばというような呼ばれ方をしていた。

「でも国広はみんなついてるから苗字みたいなものでしょ?貴方の名前は山姥切だよ」

そういっても主は聞かなかったし俺は慣れた。山姥切が自分の名前だと思うようになった。この人がそう呼ぶのならそうなのだろうと根拠のない自信のようなものがあった。

変わるのは本当に簡単だ。

修行に出てたった4日。周りの人に話を聞いただけつかえていたものが胸につっかえていたものがするすると解けていった。こんなに簡単でいいのかよと過去の自分に言いたくなるくらいだった。

早く帰ろう。主が待つ本丸に。

きっと俺が帰る時間に合わせて玄関で待機しているだろうから。兄弟やみんなもいてくれたらもっと良い。

そうだ、団子を買って帰ろうか。もう燭台切がおやつまで作ってしまっているだろうか。

幸せな想像をして足早に帰る。本丸が見えたらもう足が勝手に走りだして、玄関の扉を開いていた。

 

五組の演練相手のうちに極めた山姥切国広はいなく、他の本丸の刀に物珍しいという視線をむけられた。それでも前ほど視線が気にならなくなっていることに気がついて自分で少し驚いた。視線を彷徨わせていると、まだ布を被ったままの他の本丸の山姥切国広同士がこちらを見ながらなにやら会話しているらしい姿が目に留まった。片方の山姥切国広が何かを言うと、もう片方の山姥切国広はふっとこちらから視線を逸らして、自分たちの本丸の輪に戻ったようだった。

見ていることが俺に気付かれたから逃げたのだろうか。しかしそんな表情ではなかった。

まるで、悲しいことを思い出したみたいに。何かを言っていた方の山姥切国広も、自分の中の苦しさを抑えこむように。

 

演練の結果はあまり芳しくなかった。

極になり35レベルに戻った俺はだいぶ機動も打撃もなにもかも落ちていたのだ。4日も休んだこともある、当然だろう。

主は「帰ったらたくさん連結だね」と笑っていた。

笑っていたから、俺も笑った。

 

 

 

 

 

山姥切国広B

 

修行に行くのが楽しみだったはずだった。

演練相手の中に極になった俺を見つけた。

その時俺は怖くなった。布をとって写しであることを気にしなくなる未来の自分が怖かった。

「未来の俺に今の俺が殺されるみたいだ」

うっかり呟いてしまった言葉に、同じく演練相手のうちのどこかの極前の山姥切国広が反応した「あんたもそう思うんだな」そういった彼は目を伏せて、気まずそうに自分の本丸の仲間のところへ戻っていった。

 

「修行に行きたくなったら言ってね」

主に修行道具を渡されそう言われる。そんな日が来ることはあるだろうか。

自分はこのままこの道具を押入れにしまい込んで、もう二度と見ることは無いような気がした。

思ったとおり、俺は修行を申し込むことのないまま季節が変わっていた。

 

修行に行った大倶利伽羅が帰ってきた。これで俺以外の、この本丸にいる短刀、脇差、打刀は皆極めたということになる。

短刀や脇差達は敵の攻撃を防ぐ技を習得して進化したし、打刀は仲の良い刀を守ることができるようになって満足そうだった。みんな強くなっている。俺を除いて。

仕方ないことだ、俺は写しだから。

──写しだから。

この言い訳がなくなったら、自分がダメになってしまった時なにを理由に自分を許せるだろうかと。

「…ごめ…な…さい」

怖がって修行に出ようとしない俺を急かすようなことは一度も言わなかった主。

あんたの刀としてふさわしい自分になりたいと思うのに、それと同じだけ失望されることが怖くて仕方ない。写しであることが関係ないのなら、どうして俺はこんなに身勝手で最低なのだろう。

「行きたくない」と言ったなら、主はきっと「行かなくても良い」と言うだろう。

主が俺を許すのは何故だろう。噛みしめるように名を呼ぶのはなぜだろう。がんばったら頭を撫でて褒めてくるのは何故だろう。どう思って何をしても構わないというのは何故だろう。

 

山姥切国広は変わることができない。

それでも主が許してくる間だけ。

 

 

 

山姥切国広C

 

主が俺のことをものすごく好いていることは知っている。‘推し’というものらしく、初期刀の俺にあるものをとにかく与え、保護していた。廊下を歩けばお菓子をもらう。出陣するなら特上の盾兵2つとお守り極、両サイドに大太刀がセットだ。俺が何かを言えばそれだけで嬉しそうに微笑む。

主が写しであることを拗らせた特別自分を好いていることは知っていた。

 

演練で山姥切国広と極めた山姥切国広に会った。隣りに立っていた山姥切国広は、未来の自分に殺されるようだと極めた山姥切国広を見て言った。きっと主もそう思っている。

 

そう確信あったから、主が修行をしたいと言い出した俺に反対しなかったのは拍子抜けもいいところだった。

「まんばちゃんのしたいことなら、なんでも叶えあげたいと思ってるから」

ということらしい。それが主の強がりのようなものであることもわかっていたが、それでも許してくれたのだからと感謝して修行に出かけた。

 

 

修行から帰ったら、まず真っ先に主に抱きつかれて泣かれた。俺が修行中の4日間代わりに近侍だった鶴丸が「4日いなかったくらいで寂しがりすぎだろ」とツッコんでいる。

「主は抑えておくから他のみんなに挨拶でもしてきたらどうだ?」

さらに鶴丸の提案で俺は主の部屋を出た。

たんたんたんと久しぶりの床の感覚を味わう。

たんたんたんたんたんたんたん、徐々にスピードを上げていき、もうほぼスライディングするような形で自室に倒れこんだ。

主は平気ではなかった。帰還した俺の、布の取れた頭を見て、主はひどく哀しげな表情をした。あの表情はよく知っている。慣れている。床に倒れこんだまま動かずに静かに涙を流す。

あの時、主は確かに失望したのだ。

 

「ちゃんと話しあえ」と鶴丸に主と一緒に空き部屋に放り込まれた。修行から戻ってから俺は近侍をやっていなかった。近侍は行動の自由の制限にもなり得るから、代わりにしばらく近侍をした鶴丸は仕事に飽きてしまったのだろう。

 

部屋に入っても、主は俺を見なかった。

だからもういいと思った。

床に膝をついて手もつける。頭を下げたら完全に土下座の体制である。

「もう、刀解してくれ」

このままいてもきっとなんの意味もない。

「嫌だ」

「頼む」

「やだってば!」

びくりとして顔をあげれば、ようやくこちらを見た主と目があった。

「ごめんね」

主は泣いていた。

「何が」

「泣かせてごめん」

ようやく自分もまた泣いていたことに気がついた。

「別人みたいで怖かった。4日の修行で変わったら、まるでこの本丸はまんばちゃんにとって価値がなくて、変えられるのは私たちじゃなかったのかなって思ったらむかついて、喜んであげられない最低な自分が一番嫌で、山伏さんに相談したら修行あるのみって言われて筋トレしたけど全然ダメで、笑って『おかえり』も言えなかった」

主はもう泣きやんでいてこちらから目を離さない。

「ばかだよね、こうやって目を合わせるだけで、まんばちゃんの大好きな所は何にも変わってないってすぐわかったはずなのに」

確かに変わっていなかった。以前も今も、俺は主の刀だったから。

「おかえりなさい、まんばちゃん」

主はまだうまく笑えていなかった。

それでも良いと思った。

あんたが俺の主で、俺はあんたの刀だから。

あんたがあんたの刀を大好きなことを、俺はよく知っている。