空箱と金平糖

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花を贈るのが流行る本丸の話 【刀剣乱腐小説*つるんば】

前半はまんばくん視点、後半は鶴さん視点になっていますのでご注意ください
✱←このマークで始まったらまんばくん視点
□←このマークで始まったら鶴さん視点です。

あの娘にキスと白百合を という百合漫画の影響を受けて書いたものです。リボンの色の設定はそちらから。

 

 

 


うちの本丸には金がある。
それが何だよとは言わないで欲しい。これから話すことの大前提になることなのだ。
うちの審神者はお坊ちゃんなのだ。俺のいる本丸では特がついた時とカンストした時の二回、褒美がある。金の力でほぼ何でもありという感じだ。そんな主の初期刀である俺、山姥切国広はもちろん古参なだけ早く特もつくしカンストもした。特がついた時はどんなことをねだれば良いのかもわからないし、どこまでいけるのかという相場やそもそも写しが主にお金を消費させてしまっていいのかと悩み、他の刀が何度か褒美を頼んだあとにやっと褒美をもらった。
カンストしたぶんの褒美は思いつかないので保留している。本丸はもう快適に整えられていて、やろうと思えば映画鑑賞もトレーニングも読書も水泳もできるほどだ。願い事がまったく思いつかない。
それはそうと特がついた時にもらった褒美というのは庭園だった。花壇を頼んだだけだったし、庭園というにも広すぎるくらいのものが本丸にできていたのだから驚いた。というか本丸自体の敷地がどんどん広くなっいるが良いのだろうか。
閑話休題
もらった庭園はほぼ薔薇専用の庭園となっていた。というのも主が大量の薔薇の種を買ったからなのだが。薔薇の栽培マニュアルや肥料も一緒に貰い、なんとか毎年花を咲かせている。
長期遠征などでいない時は燭台切や小夜や陸奥守や御手杵も手伝ってくれているから、また何か菓子折りでも渡さなければ。

前置きはここまでとして、そんな俺はいま現在短刀たちに囲まれている。
なんでも薔薇を少し譲ってほしいらしい。
専用のハサミを渡し、刺に気をつけるように注意した。短刀たちはおもいおもいの色の薔薇を少しだけ切って持っていった。
何に使うのかわからないが、短刀たちにはしっかりした保護者もいるしおかしな使い方はしないだろう。
だからそこまでこの出来事を気に留めなかった。しかしそれはその日だけでは終わらなかった。次の日には本丸の脇差連中が薔薇を分けてほしいと言うのだった。

聞けば、どうやら本丸内で花を贈るのが流行っているらしい。
なんでも、主の用意した漫画棚にあった恋愛漫画の影響らしかった。花だけでなく花にリボンを縛って贈るようで、リボンを持っていた加州と乱のところにも客が殺到したらしい。さすがに足りなくて主がリボンをたくさん買ってきていた。
リボンの色にも意味があるらしい。
桃色は尊敬、黄色は感謝、紫色は謝罪。
そして赤はたった一人に贈る特別な色。
兄弟も薔薇の茎に赤いリボンを巻いていた。「兼さんにか?」と聞けば兄弟は人差し指を口元に当てて困ったように笑い、「内緒だよ」と言った。
その次の日は打刀の面々だった。さらに次の日は太刀の面々、そのまた次の日は大太刀と槍と薙刀
本丸中が花に託して想いを伝えられることを喜んでいるようだった。弟達みんなにもらった一期一振なんてもはや花束のような沢山の薔薇をみて静かに涙を流して天を仰いでいた。
俺も主や兄弟二人からもらい、加州や陸奥守や大倶利伽羅まで薔薇をくれた。
おそらくこの本丸でまだ誰にも薔薇を渡していないのは俺と鶴丸国永だけだろう。
イベントごとにはいつも乗り気な白い太刀が薔薇を調達しにこないのは意外だった。
鶴丸国永に対する素直な感想はといえば、五月蝿い刀だという感じだ。
本丸に来たばかりの頃の彼は初期刀として本丸の案内や生活の世話をしたが、一体何度殴り倒そうと思ったことか。しかし「山姥切、驚いたかい?」と笑う顔を見てしまえば、起こることなどできないのだった。
そんなことを考えていたら後ろから声をかけられる。噂をすればなんとやら、そこにいたのは鶴丸国永だった。
「薔薇を一輪もらって良いかい?」
「持っていけ。これが鋏だ。トゲには気をつけろ。」
鶴丸国永があげるとすれば伊達の二人だろうか。だとすると一輪では足りないから違うかもしれない。よく縁側で話している鶯丸あたりかもしれない。
ぼんやりと予想を建てていると
鶴丸が目の前にいた。
「これ、貰って行くぜ」
鶴丸が持っているのは真っ白の薔薇だった。
「ああ、構わない」
「ありがとな」
彼はそれを誰に渡すのだろう。どうしても少しずつ遠ざかる真白い背中にそれを聞くことは山姥切にはできなかった。


「ごちそうさまでした」
今日の夕餉も美味しかった。本当に燭台切は腕が良い。
立ち上がって食器を片付ける。今日は俺が食器洗い当番の一人だ。同じく当番の秋田と分担して食器を片付けていった。
片付けを終えて自室に戻ろうとすると、審神者の部屋から鶴丸がでてきた所だった。
そのまま特に何もいわずに通り過ぎる。しかし山姥切国広の視線は一点に釘付けになる。
鶴丸が手に持っている一本の真っ赤なリボン。
それを昼間の白薔薇に結んで誰かに手渡すところを想像する。
ちりちりと脳が焼け焦げそうな未知の感覚の名前を山姥切国広は知らなかった。


それから一週間鶴丸国永との会話はなかった。
普段ならば一日一度は驚きの仕掛けがまっているのに。
部屋のフラワーロックにかけた布に異変はないし、他の刀までも落とし穴にかかる様子もない。怒った一期や長谷部に追いかけられる鶴丸というよくみる構図も最近は見かけなかった。出陣や内番、それと食事の時くらいしか部屋から出ていないようだ。
不思議なものだと思うが、鶴丸が赤いリボンを持っていたのを見てからは目に映る白に少しだけ気落ちしてしまうのだ。だからほんの少しだけ安堵もしていた。
鶴丸から薔薇をもらったという誰かの話も全く耳に入ってこない。さすがにそろそろ枯れてしまうだろうから、もう既に渡してはいるだろう。大倶利伽羅や鶯丸ならば進んで口にもしないだろうから、やはりその二人のどちらかだろうか。
また脳がちりちりとしてきたから考えるのはやめよう。山姥切国広はゆっくりと枕に顔をうずめた。


ふすまが叩かれる音で目が覚めた。すぐに時計を確認したら、一時間ほど経過していた。眠ってしまっていたらしい。
いったい誰だろうと襖をあければ、寝るまで考えていたら白い立ち姿があった。
驚いたのはその表情。いつもとは比べ物にならない、初めて見る無表情だった。
「どうした?」
鶴丸が手を持ち上げる。そこには赤いリボンが巻かれた薔薇があった。元の白い色はかろうじてわかるが、完全に枯れて黒と茶色っぽくなっている。
枯らしてしまったという謝罪だろうか。それとも渡す前に枯れたという文句だろうか。何を言われるのだろうと身構える。
「受け取ってくれないかい?」
「…枯れた薔薇をか?」
「そうだ。枯らすために今まで置いておいた」
つまり元々枯らすつもりだったらしい。しかも俺に渡すために。これは新手の嫌がらせだろうか。俺は鶴丸に何かしてしまっただろうか。
「まぁ用事はそれだけなんだ。じゃあな。」
鶴丸は軽く頭を下げて自室の方向に歩いていった。
わざと枯らされた薔薇と赤いリボン。
赤いリボンは、たった一人にしか渡せない特別なもの。兄弟は兼さんに相棒の意味でわたしたのだろうと思うし、主が俺にくれたものは初期刀に対する信頼の証だと言っていた。赤いリボンの意味に制約はない。
だめだ、まったく良い方に考えられない。
どうしても謎が解けない俺は鶴丸に貰った薔薇を持って主の所へと行った。


「枯れている薔薇をもらった?」
首を傾げた主に「そうだ」と肯定の意を示す。
主は少し考えこんだ。
花言葉
「はなことば?」
主がいうには、植物の種類によって人間が決めたフレーズがあり、それが花言葉というものらしい。
そのまま主はあいぱっどを開いて、指でつついている。
「何をしているんだ?」
「図書室の貸出履歴の確認。鶴丸さんが植物図鑑とか花言葉辞典とかを借りてないか」
図書室はたしか歌仙の特の褒美でつくられた部屋だ。ジャンルはバラバラ、強いて言うなら主の好み。機械を使って貸し出しもしている。借りた本を主が端末から確認できたことは初耳だが。
「ビンゴ。それももう返却してるみたいだね。それじゃあ切国、本を確認しに行こう」



枯れた薔薇の真意は伝わっているのだろうか。
花を渡した時、山姥切国広からはなんの感情の機微も感じられなかった。
枯れた薔薇はともかく、赤いリボンの意味を知らないわけではないだろうに。
好きの反対は無関心。そんなの最近じゃよく聞く言葉だ。
枯れた薔薇とリボンに疑問を抱いたとしたって、それでも興味がなければ知ろうとだってしないだろう。
「何も思われてないのはさすがになぁ…」
さすがに、傷つく。
山姥切国広、追いかけて意味を聞きに来てくれ。この部屋の襖を開けてくれ。名前を呼んでくれ。その眼に俺を映してくれ。あの花の意味を知ったあとで、君からも同じ色のリボンが欲しい。
気を紛らわすように読書をはじめたが、二十分たってもおそらく三ページほどしか進んでいないし、その三ページの内容さえ全く頭に入ってこなかった。
「…光坊に茶をいれてもらうか」
立ち上がって部屋を出る。この一週間全く気が気でなく、ほぼずっと部屋でしおれていく白い薔薇を眺めていた。彼が懸命に育てていたものだと思ったら心苦しくもあったが仕方がない。適切なメッセージはただ一つだった。
考えるのはやめよう。明日から俺は普段通りに彼に話しかけて、それで。
「あれ、鶴さんどうしたの?」
いつの間にか厨にたどり着いていたらしい。
「…君はいつでも厨にいるよな」
「ちゃんと出陣もしてるよ?」
不服そうな光坊にお茶を頼む。彼は快く引き受けてくれた。流れるように茶をいれる。この動作がここまで似合うというのもなかなか珍しい。
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
「そういえば、鶴さんは僕や倶利ちゃんにお返しをくれないのかな?」
「お返し?」
光坊は言ってから催促なんて格好つかないと思ったのか少しきまり悪そうに顔をしかめた。
「花だよ。渡したでしょ?」
「ああ、あれなぁ。本丸中の皆が一斉にやったら山姥切が育てていた庭が大変なことになるだろうなと思ってな。いや、俺一人くらいで変わるもんでもないだろうが」
「うん。あの庭は倶利ちゃんも気に入ってるし、花が減って寂しくなるのは嫌だもんね」
「ま、来年にでもお前らにプレゼントしよう。」
言って光坊の頭を撫でる。俺より10センチ近く背が高いから少し背伸びするはめになった。
「じゃあ、楽しみに待ってるよ。あと髪が崩れるからやめて」
「ほいほい。それじゃ俺は部屋に戻るぜ。」


部屋の前で、目に飛び込んできた光景に、鶴丸は一度呼吸が止まりそうになった。
鶴丸国永」
廊下の奥の方から山姥切が歩いてきていた。鶴丸の方を真っ直ぐに見て。彼はいつもそうだ。布で視界を覆っているようにみえるが、いつだって相手の目をしっかりと見ている。敵の視線にいちゃもんをつけて斬りつけたりしていたから、みんな結構早い段階で気がついていた。
「なんだい?」
視線はあわせないまま鶴丸はにこ、と笑いかける。思ったよりもうまく出来た。脳みそのどこかの冷め切った部分で鶴丸は起こっている出来事に対処していた。
山姥切は鶴丸の質問に何も返さずずんずんと歩いてくる。目の前まで来たところで、鶴丸のフードに何かを入れた。
それを確認する間もなく山姥切に手を握られ強く引っ張られる。
「こっちだ。来てくれ。」
言葉が足りないにも程がある。物語の中の悪役みたいな台詞だ。悩んだことが馬鹿らしくなるくらいに彼は真っ直ぐだ。
もう足取りは軽い。手は繋がったままだが手を引かれてはいない。横に並んで一緒に進んでいた。
もう、彼が俺に興味がなくたって良いのだ。好きになってもらえば良い。今の自分の鼓動と同じくらい君の心臓を動かしたい。

辿り着いた先は庭園だった。
山姥切が俺の手を離そうとしたが、俺が強く握り返してそのままにしておく。
もう片方の手でフードに手を突っ込んでさっき入れられた物を確認する。
それは赤いリボンだった。
「返却するってことかい?」
「違う」
すぐさま否定した彼は、持っていたの彼自身の本体を俺に見せてくる。
山姥切本体の鞘には同じような赤いリボンが結ばれていた。
「これは、」
俺のかい?なんて聞いても大丈夫だろうか。確か主も彼に赤いリボンを渡していた。
「あんたのだ」
心を読まれたのだろうか。鶴丸は視線を落とし自分の手元のリボンを見つめる。
「だからそれは俺からのお返しだ」
「っ、きみは」
意味がわかっているのか?
心の中だけで呟いた疑問にはもちろん答えは返ってこない。
「右を見てくれ」
言われた通りに右側を見る。右側は彼の庭園だ。花を贈るブームで薔薇はそこそこ減ってしまっていたが、美しさは衰えてはいない。
「全部、あんたにやる」
「はぁ!?」
薔薇を眺めいたら唐突に聞こえた言葉に思わず大きな声を上げてしまった。
「情熱も尊敬も感謝も愛情も信頼も友情も嫉妬も誠意も恨みも憎悪も愛も、今あるぶんもこれからの分も全部あんたにやる。」
彼が口だけの動きで ずっと と言ったのを見届けたら、もうだめだった。
「君はきっと後悔するぜ」
「もう後悔してる」
「はははっ」
握ったままの彼の手を静かに話して、もう一度手を取り持ち上げる。彼の手にキスを落として、彼と一週間ぶりに目を合わせた。
全部もらおう。生涯をかけて。

 

 

 

花言葉

白薔薇
尊敬
純潔
約束を守る
無邪気
恋の吐息
私はあなたにふさわしい

○折れた白薔薇
死を望む

○枯れた白薔薇
生涯を誓う